
コンピュータビジョン+AI学習
目に見えないものを撮影する
カメラを実現
画像情報処理知覚情報処理コンピュータビジョンコンピュテーショナルフォトグラフィ
低コストで安全に人体の内部情報を画像化する
私はこれまで一貫してコンピュータビジョンを含めた画像情報処理※Tips分野の研究に携わってきました。画像情報処理というと画像データの分析や処理方法を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、私が注力しているのは撮影方法の革新です。その成果の一つは皮膚の下に隠れている血管をリアルタイムで観察する技。普通に撮影しても皮膚の下に隠れている血管の様子を見ることはできませんが、プロジェクター(照明)とカメラを制御することで血管を通過して戻ってきた光だけを選択的に捉えられるようになりました。レントゲンのような被ばくリスクがなく、MRIのような高額で大きな装置も必要ないため、医療現場だけでなく、家庭や災害現場での使用も可能です。さらに、得られたデータをAIに学習させることで血管の形状変化を捉える診断ツールとしての活用も期待できます。
Tips
画像情報処理(Image Information Processing)
画像を補正・変換したり、特徴を取り出したりして、画像から有用な情報を得るための技術。医療画像、検査、コンピュータビジョンなど幅広い分野の基盤となる。
AIでも判別しかねる白い液体の正体を可視化する
従来の撮影法では被写体の内部情報(皮下の血管など)を写すことはできませんでした。通常のカメラ(撮影方法)は、人や風景など撮影する物体の表面に反射した光を記録するため、あくまで得られるのは表面の情報だけでした。例えば、コップに入った白い液体の画像を見せても、AIは、それが牛乳なのか、液体石鹼なのか、それとも、水に溶けた歯磨き粉なのか判別することはできません。表面情報だけではAIを使ってもその材質や内部構造を判別することは難しいのです。しかし、光の透過・散乱の具合には内部の材質によって異なるという性質があるため、そこを通過して戻ってきた光から白い液体の正体を可視化することも可能になります。成分や内部構造の差異を高精度でキャッチすることができれば全乳か低脂肪乳かといった違いまで、見た目だけで分別することが可能となり、生産ラインでの品質管理の向上などにも貢献できるはずです。

被写体にプロジェクターで光を当て、反射してきた光を独自なアングルから撮影することで血管から反射してきた光だけを選択的に捉えて画像にする。肉眼では見えない血管がはっきりと見える(左)。人間の目では識別できない「白い液体」の成分を見分けることもできる(右)。
アニメ制作現場における人間とAIの関係とは
同じコンピュータビジョンの領域ですが、別の観点からの実践として、アニメ制作会社と共同で「AIによるアニメ制作工程の効率化」をテーマに研究を進めています。アニメの制作工程は多岐にわたりますが、線画に色を塗る工程には大きな労力が費やされています。この工程を効率化しようと考え、数万枚の着色済みの完成画像を用意してAIに学習させたのですが、なかなか思うように色を選ぶことができません。99%の精度で着色できても、最後の1%で着色ミスがあれば制作現場では致命的な問題になります。そこでAIが前もって色の候補を絞り込み、人間が正しい色を選ぶ「共同作業」によって効率化を図る形にシフトチェンジしました。速さに勝るAIと精度に秀でている人間がそれぞれの良さを持ち寄って着色工程を担うことで大幅な時間短縮ができるということの一例と言えるでしょう。
AIの普及によって人間の仕事が奪われるという意見もあり、一部にはそういう面もあるでしょうが、AIが常に正しいとは限らないことはこの事例からも明らかですし、人間にしかできないことも数多く存在します。その認識の上で互いに補い合って高精度で効率的な仕事をしていくというのが今後の社会に求められることだと思います。
Profile

久保尋之 准教授
千葉大学大学院情報学研究院 情報・データサイエンス学部准教授。2012年、早稲田大学大学院先進理工学研究科にて博士(工学)取得、その後、キヤノン株式会社、奈良先端科学技術大学院大学助教、Carnegie Mellon University Robotics Institute客員研究員、東海大学特任講師などを経て、2022年より千葉大学に着任。