
機械学習+計算代数
AIの精度を高め
信頼できるパートナーに育てる
機械学習計算代数深層学習Transformer論理推論技術
人間とAIの認識方法の違いを数理的に解明する
私がAIや機械学習※Tipsの研究に携わるようになったのは、「人間とAIが見ている世界は同じなのか」「違うとすれば何が違うのか」ということに強い関心を持ったからです。人間のように画像を認識したり、文章を生成したりできるAIですが、その内部の仕組みは人間とはまったく異なり、例えば、人間にはパンダにしか見えない画像にほんの僅かなノイズを加えただけで、AIはテナガザルと判定してしまうことがあります。こうした現象を解析することで、その脆さや限界を数理的に解き明かしたいと考えたことが私の研究の出発点になりました。
Tips
機械学習
コンピューターに大量のデータを読み込ませ、複数データ間に共通するパターンや規則性を自動的に学習させる技術。AIの精度を高めるとともにデータ分析に基づく分類・予測・判断などを実現させる重要な技術の一つとなっている。

人間にはパンダにしか見えない写真だが、AIには「テナガザル」に見えてしまう画像がある。AIは「宇宙人」。人間とは異なる形で世界を理解している。どう違うのかを考えたり、その違いの活用法を考えたりするのも1つの研究分野。
AIが自ら考え「解」を出すための理論を求めて
私は計算代数や数理情報学を専門にしてきました。方程式を効率よく解くアルゴリズムや、計算の背後にある論理構造を扱う領域です。近年のAIは膨大なデータと演算に支えられていますが、その「計算」が正しく、安定して行われるためには数理的な裏付けが欠かせません。AIの機械学習や論理的推論の過程を単なる経験則(パターン)としてではなく、数学的に説明できる形で整理したい──その思いが機械学習と計算代数の研究を結びつけることになりました。
現在は、AIの判断根拠を可視化したり、異なる画像の中の“類似性”を見抜く「曖昧で厳密なマッチング」の手法を開発したりしています。さらに、AI自身に代数を学ばせる「代数の学習」と、AIを利用して新しい代数理論を発見する「学習のための代数」という両方向の試みも進めています。どれも、人間のような“論理的推論”をAIがどこまでできるかという問いに通じており、AIが単に「問い」のパターンを踏襲して「解」を出力するのではなく、自ら理解し考えられるようにするための理論を築きたいと考えています。
人間とAIの「信頼関係」を築くために
研究を通して学生たちに伝えたいのは、「派手な応用技術の裏には地味で基礎的な理論がある」ということです。AIを使いこなすためには、その仕組みを理解し、なぜそのように動くのかを説明できるかどうかが重要です。私は授業でよく“料理”の例えを使います。レシピを見れば誰でもその料理を作れますが、素材や調味料に変化を加えたり、まったく新しい料理をつくり出したりするためには理屈と経験の両方が必要です。それはAIも同様で基礎理論という確かな「舌」を自分で鍛えることが新たな創造の第一歩になります。
今後、AIは私たちの社会により深く入り込んでいきます。だからこそ、人間とAIの違いを理解し、信頼できる関係を築くことがますます重要です。
AIを人間に近づけることだけが目的ではなく、違いを理解し、その違いを活かす研究──それが私のこれからの目標であり、学生たちにも不断の探究心を持って、自分なりの「問い」を見つけてほしいと思っています。
Profile

計良宥志 准教授
千葉大学大学院融合理工学府 情報・データサイエンス学部准教授。2020年、東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程修了。同年より東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員。その後、千葉大学大学院情報学研究院助教、Zuse Institute Berlin客員研究員などを経て、2025年より現職。