Research Subject
研究テーマ

数値気象予測データ同化


気象データサイエンスで
集中豪雨による被害をなくす!

深層学習AI災害予測量子計算アニーリング全球降水マップ

線状降水帯の発生を未然に防ぐ

「線状降水帯」という気象用語を聞いたことがあると思います。次々と発生する雨雲が列をなして特定地域に停滞し、集中豪雨を降らせ、洪水や土砂崩れなどの災害を引き起こしています。このような気象災害は、この10年で確実に増加しており、その被害総額は年間1〜2兆円にものぼります。私たちが、国家プロジェクト「MOONSHOT※1」の研究テーマとして取り組んでいるのは、データサイエンスを使って気象をコントロールし、集中豪雨による被害をなくすことです。
日本の天気は西から東に向かって流れてきます。線状降水帯のメカニズムは、東シナ海で蒸発した水蒸気が上空を東に向かって流れてきて、九州や四国などに上陸し、積乱雲となって雨を降らせるというものです。この大量の水蒸気に人為的に働きかけ、日本列島に近づく前の海上で雨として降らせてしまえば、豪雨災害を避けることができるはずです。
方法としては、上空で水蒸気の粒をつなぎ合わせる粒子を散布するシーディングや、高さ300メートルぐらいの巨大な凧を海上に設置し、上昇気流を作って雨を降らせるなど、いくつかの方法を組み合わせることが考えられます。現在は天気を予測する数値シミュレーションモデルを作って、雨はどこで降らせたらいいのか、凧を置いたら本当に効果があるのかなど、様々なアイデアをコンピュータ上で検討しています。

線状降水帯による被害軽減のイメージ
A:海上にある水蒸気にドライアイスのような「雨の種」を撒き人工的に雨を降らせることで、陸上での降水量を軽減する。「クラウド・シーディング」ともいう。
B:海上に大きな凧を設置して上昇気流を発生させることで、人工的に積乱雲を作り、降雨を促す。

Tips

MOONSHOT
少子高齢化や地球温暖化、大規模災害などの様々な課題解決に向け、日本発の破壊的イノベーションを創出し、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を行うというコンセプトで創設された、国の大型研究事業制度。

「データ同化」で予測精度を高める

数値シミュレーションモデルを作って計算しても、計算結果と現実とが乖離していては意味がありません。そこで大切なのが「データ同化※2」というデータサイエンスの技術です。計算結果に実際の観測データをどんどん取り込んでいくことで、シミュレーション結果を現実に近づけていきます。
データ同化は、50年以上前から天気予報に利用されていた技術ですが、AIやビッグデータの活用、スーパーコンピュータの進歩によって、急激にその精度が高まり、例えば新型コロナウィルスの感染予測や、宇宙ロケットの制御実験など、様々な分野で利用されています。

Tips

データ同化
気象観測衛星やレーダーなどの観測データをシミュレーションモデルに取り込むことで予測の精度を高めるための手法。これにより観測が困難な地点の気象予測が可能になる。

データサイエンスをツールにできる人材を育てる

データサイエンスは数学の一つです。数学というのはそれ自体が研究の対象になるわけですけれども、同時に様々な自然現象や社会課題を研究するための「道具」にもなり得ます。データサイエンスも同様で、例えば高度な計算をするためのスーパーコンピュータを開発しようというのもデータサイエンスですが、同時に、世の中にある様々な社会問題を解決するために利用できる普遍的な学問でもあるのです。
今後、データサイエンスは必須の知識・スキルになるでしょう。データサイエンスとは何かを学びたい人、データサイエンスを使って社会的課題を解決したい人の双方に有意義な学びの場がここ、千葉大学にはあります。ぼんやりとでも「何か面白そうだ」と感じた人なら、この学部で自分を成長させる4年間を過ごすことができるはずです。

JAXAの全球降水予報プロダクト
全地球規模の降水状況をシミュレーションしている地図。人工衛星や陸上の観測データを集め、「データ同化」や「機械学習」などのデータサイエンス技術を使って統合することで、精度の高い降水状況の世界地図を作成するための研究に取り組んでいます。

Profile

小槻峻司 教授

小槻峻司 教授

千葉大学国際高等研究基幹 情報・データサイエンス学部教授。2009年、京都大学工学部地球工学科卒業。2013年同大学院工学研究科修了。その後、独立研究開発法人 理化学研究所 計算科学研究機構の特別研究員・研究員を経て、千葉大学環境リモートセンシング研究センター准教授。2022年より現職。博士(工学)。